本書は、日系ブラジル人の 「敬意表現」、要するに敬語の使い方に焦点をあてる。日本人、日系アメリカ人、日系ブラジル人とも、90%前後が日本語に敬語が必要であるとしている。それにもかかわらず、日系ブラジル人の敬語は、文化庁の「敬語の指針」のような規準からすると、くずれていると感じられる。
著者:山下暁美
出版社:三元社
定価:4500円+税
本書のテーマは、ブラジル (およびアメリカ) の日系人の日本語である。日系ブラジル移民100周年の今年にふさわしい。
日系ブラジル移民の有名なエピソードとして 「勝ち組」 と 「負け組」 というのがある。第2次大戦終結にさいして日本の敗戦をみとめようとしない 「勝ち組」 は、子どもたちを日本人として育てようとして日本語を熱心に教えた。一方 「負け組」 は、子どもたちがブラジル社会で成功するようにポルトガル語を積極的に学ばせたという。
こうしたさまざまな要因がからみあい、日系ブラジル人の日本語は独特に変化しながら存続した。著者の調査によれば、日系ブラジル人の99%は 「日本語が必要である」 としている (日系アメリカ人では58%)。ただし、70%の日系ブラジル人の母語はポルトガル語である。
本書は、日系ブラジル人の 「敬意表現」、要するに敬語の使い方に焦点をあてる。日本人、日系アメリカ人、日系ブラジル人とも、90%前後が日本語に敬語が必要であるとしている。それにもかかわらず、日系ブラジル人の敬語は、文化庁の
「敬語の指針」 のような規準からすると、くずれていると感じられる。日系人は "正しい" 日本語が使えないネというはなしでおわりかねないところだが、著者はそこに、敬語を用いる意識の変化をみいだす。つまり、日系ブラジル人にとっての敬語は、社会秩序や規範の意識をあらわすものからやさしく丁寧であろうとする気持ちをあらわすものに変化してきているというのである。
ここに、本書のテーマが 「敬意表現」 である理由が感じられる。同時にそれは、現代の日本語の変化を新しい目でとらえる切り口をも提供してくれる。なにしろ、この100年間に日本の日本語も大きく変化した。来日する日系ブラジル人の日本語が通用しないのはそのせいもあるのだという。
本書の調査と分析は、じつに緻密で実証的である。理解しきれないなりにも、日本語研究というのはこんなふうにおこなわれるものなのかと目をみはった。
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