本書の半分近くの紙数を割いて述べられているのが、「認知症患者に対する適切で上手な介護の必要性」である。臨床医として医療の現場から、介護の重要性を説くところに、本書の価値はあると思う。
著者:川畑信也
出版社:集英社
定価:680円+税
著者の川端信也氏は、「物忘れ外来」で10年以上の臨床経験を持つ認知症疾患のスペシャリスト、現場の人である。そのことは、著者のプロフィールだけでなく、本書を一読すれば、実感できる。
一口に認知症と言っても、そのことばでイメージする内容は人それぞれで、中にはマスコミなどによって垂れ流された誤った情報を鵜呑みにしているケースや、未だに恥としたり、家族に至っては隠したいというような、負の印象を持つ人も多いようだ。
そういった認知症に対する誤解や偏見に対し、現在の医学で判明している認知症についての正確な情報を広く理解してもらいたいというのが、本書を執筆する一つの動機になったという。
そしてもう一つ、本書の半分近くの紙数を割いて述べられているのが、「認知症患者に対する適切で上手な介護の必要性」である。臨床医として医療の現場から、介護の重要性を説くところに、本書の価値はあると思う。
本書は、まず病的疾患としての認知症について、臨床例をもとに基礎的知識を与えてくれ、その主な症状と周辺症状まで丁寧に解説してくれる。さらに、第6章からの後半は「適切で上手な介護の重要性」を説き、それが単なる医療・介護に関わる問題としてだけでなく、社会的な問題としての側面をもあぶり出している。
一貫しているのは、認知症診断の難しさや、患者本人と家族の関係の重要性、そしてそれを周囲から支える、医療・介護に携わる人々の適切かつ上手な対応の必要性を説いていることである。
この春相次いで祖父母を見送った我が身を振り返れば、ある痛みを伴って読まざるを得なかった。しかし、現在家族に認知症者がいる人も、そうでない人も、本書から学ぶことは多いのではないかと思う。
少子高齢化や医療・公的介護保険の危機があちこちでかまびすしい昨今、一人でも多くの方が本書を手に取ることを祈りたい。認知症が正しく社会に認知され、適切で上手な介護の実践できる社会を実現するためにも。