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不登校の「内側」と「外側」―『14歳』を読んで

秋吉俊邦2007/02/24
不登校や引きこもりを、自分自身の視点で見たいわゆる「当事者本」である本書は実兄とともに結成したお笑いコンビ「千原兄弟」の弟が、自らの中学生時代の体験と家庭内暴力に至る心の葛藤を淡々と綴っている。芸能人の書いた本であるということから、不登校や引きこもりにあまり縁のない人が、当事者の苦しい心のうちに、少しでも触れてくれたらと思う。
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著者:千原ジュニア<br>
出版社:講談社<br>
定価:1400円+税
著者:千原ジュニア
出版社:講談社
定価:1400円+税
 ニートに取って代わられたところもあるが、不登校・引きこもりは、現代の子ども・若者を語るうえで欠かせないキーワードになっている。ほとんどは、「けしからん」「なっとらん」「なげかわしい」という非難の対象ではあるが。

 この問題については、実に多くの書籍が出版されている。その多くは精神科医やカウンセラーなどの「専門家」の立場から、かれらの「病理」を直し、「社会復帰」させようというものだ。

 私が、わが子の不登校を理解するうえでもっとも役にたったのは、不登校のまさに当事者である子ども本人が、自分自身について、親について、学校・教師について、社会について述べた、いわゆる当事者本だった。

 「専門家」の書いた本は、不登校をいわば「外」から眺める。そして、社会の側、ないしは上からの視点で、「治してやろう」「引き上げてやろう」というスタンスが、ほぼ共通している。

 それは、社会の常識あるいは標準を絶対的な指標にして、不登校や引きこもりと呼ばれる状態にある子どもや若者に、「あれが足らない」「これが足らない」とマイナス面ばかりをあげつらうものになりがちだ。

 一方、当事者が書いたものは、不登校や引きこもりを、自分自身の視点で、いわば内側から見たもので、親や教師、「専門家」たちが、「良かれ」と思ってしたことが、いかに本人にとって、余計なお世話であったり逆効果であったりするかがよくわかる。

 本書もまたそうした「当事者本」のひとつであり、実兄とともに結成したお笑いコンビ「千原兄弟」の弟が、自らの中学生時代の不登校体験を、たんたんとつづったものである。

 当事者本は、それを読む人の立場によって、大きく受け取り方が違うのが特徴だ。不登校や引きこもりに全く縁のない人は、その中の異常性に着目し、自分たちとの違いを発見しようとする。

 不登校や引きこもりをしている(た)本人にとっては、自分自身の体験と重なって、ときにはフラッシュバックに襲われて、なかなか読み進めない。わが子がその渦中にある親ならば、本を開くことさえ苦しい。

 同じ経験者でも、不登校も引きこもりも、すでに過去のエピソードとなって、またその体験から多くを得た者は、本人であれ親であれ、「ああ、こういうこともあったなあ」と、ときには淡々と、ときにはほほえましく、ときには大笑いで読み進める。

もう少しだけ待っていてください
 不登校や引きこもりについて、多くの人々の関心事のひとつに、「どうやってそこから脱出するのか」ということがある。社会の側から提供される、不登校や引きこもりに対する「支援策」の多くが、そこからの脱出を目的にあげている。

 当事者本に対して、多くの人々が期待するのも、こうした「脱出ストーリー」だ。本書に対する新聞報道の中にも、本書を「脱出ストーリー」のように紹介しているものもある。それを期待して本書を読むと、その期待は裏切られる。

 本書の中で、兄に誘われてお笑いの世界に飛び込む、「脱出ストーリー」の部分は、終わりの方の一部でしかない。大部分が、学校に行けず、ほとんど部屋にこもりきりだったときの、苦しい胸のうちを綴った部分だ。

 学校に行っていない子、閉じこもっている子のほとんどは、本書の「僕」と同じように、親に心配をかけていることをすまないと思い、なんとか親の期待に応えようと考えている。でも、それができないから苦しいのだ。

 親の気持ちはわかりすぎるほどわかっている。でも、今の自分にはどうしてもそれに応えられない。だから、ほんのちょっとでもいいから待って欲しい。本書でたびたび繰り返されている、「もう少しだけ待っていてください」という一言は、子どもの側のぎりぎりの気持ちだろう。

壁の穴は心の穴
 親もまた苦しい。苦しいからこそ、わが子に色んな質問をぶつけ、要求もする。それに答える言葉のない「僕」が、いわゆる家庭内暴力に至る心の葛藤についても、淡々と綴られている。

 気に入らないから暴れるのではない。腹が立つから暴れるのではない。一生懸命言葉を探しても、親の望む答えが出てこず、何かがぷつりと切れるようになってしまう。そして、暴れた後で、ひたすら自分を責め続ける。
 「僕」は、家のあちこちの壁に穴を開けた。男の子には珍しくなく、ある意味それは「戦跡」でもある。その壁の穴は、その子の心に空いた穴でもある。

 有名な芸能人の書いた本であるということから、不登校や引きこもりにあまり縁のない人が、当事者の苦しい心のうちに、少しでも触れてくれたらと思う。
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