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番組にかかわった者による事実の検証と論文

川辺一弘2005/10/30
傷つけられた人々の悲しみへの共感を欠く権力者の暴言とメディア側の沈黙と忘却、真摯な問いかけへの無視という暴力。これらの傾向はマスコミ界だけでなく、社会に広がりつつある。
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編:VAWW-NETジャパン<br>
出版社:凱風社<br>
定価:2000円+税
編:VAWW-NETジャパン
出版社:凱風社
定価:2000円+税
『消された裁き〜NHK番組改変と政治介入事件』を読んで

 NHKの戦時暴力を裁くを期待をして視聴した。「女子国際戦犯法廷」を取り上げたシリーズ第2回を見ていて、番組全体の主張がわからず混乱した覚えがある。「従軍慰安婦」だった被害女性の証言部分が映像になかったことに不満を感じた。出演した米山リサ氏のコメントは期待はずれ。それよりも、長い時間、好きなように被害を受けた証言者の女性たちの尊厳を奪い侮辱する自説を展開した秦郁彦氏の発言に憤りを持った。

 後で番組が「改変」されたことを知った。番組への違和感や憤りは起こるべくして起こったのだった。なぜあのような番組改変が行われたのかを知りたいと思ってきた。

 『消された裁き』は、番組にかかわった制作者、出演者、研究者などによる事実の検証と論文によって政治介入による番組「改変」が行われたことや、この法廷の意義や法的・倫理的な正当性を述べている。「その背景には何があったのか」「何が問われているのか」「メディアがどうなっているのか」明らかにしている。ディレクターの一人、坂上香氏の論文から、良心が権力の介入、外部圧力と管理職の強権によって踏みにじられていく様がよくわかる。

 中立性や公平性という表向きの理由によって、届けられるはずのメッセージが正反対のものに変えられてしまったのだ。米山リサ氏は、放映された番組で自身の発言が大幅にカットされ、文脈が無視された上で、発言意図と正反対の内容にされたことなどを「放送と人権等権利に関する委員会」訴えた。そして冷静に見直して、あきらかに番組は制作意図を無視した検閲と改ざんである、と厳しい。

 番組改変後は、トークニズムというマイノリティの尊厳剥奪の手法が巧みに用いられ、記憶をめぐる争いに忘却を強いたい勢力が巻き返しを図ってきた5年だった。トークニズムとは、「少数者に自由に語らせているかのようなリベラル性をいっぽうでは装い、実際には社会の現状維持を批判するような発言は閉じこめてゆく」こと(米山論文)。

 傷つけられた人々の悲しみへの共感を欠く権力者の暴言とメディア側の沈黙と忘却、真摯な問いかけへの無視という暴力。これらの傾向はマスコミ界だけでなく、社会に広がりつつある。

 ウソも権力側がマスメディアを利用して言い続けると「真実」のようになっていく。多くの人々は、このような当事者たちの証言や事実経過を追って、ことの真相や問われた歴史的な事実、性奴隷制の被害者たちの証言に耳を傾けて、判断をすることは少ないだろう。大量のウソを流しつづけた側が有利になる。

 でも、黙していては、この逆流を巻き返すことはできない。「裁きなき戦後を問う最後のチャンス」を数回は逃がしてしまったが、あきらめるわけにはいかない。抵抗するには、まず、ここに納められた論文を読み、ことの真実や課題に目を向けることだろう。勇気ある証言者たちの尊厳を回復し、番組づくりに関わった人々の良心と叫びに応答したいと思う。
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